イフェクサーと不安症

2020年8月14日金曜日

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不安症群の治療には、SSRIとSNRIがよく使われます。SSRIではレクサプロ、SNRIではイフェクサーの評価が高いようです。もちろん、有効性も患者評価もベンゾが一番ですが、長期的な視点から治療を考えれば、ベンゾは限定的な使用にとどめざるを得ません。

今回はイフェクサーの使用症例を2例紹介します。

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症例1、有効例


C さんは30歳の女性です。今も両親と同居していて、自宅から2駅離れたところにある会社に勤めています。

両親は健在で、二人とも子ども思いです。一人っ子のC さんですが、特に甘やかされて育ったわけではありません。

関東の都市部近郊で育ったC さんは、子どものころから内気で、しゃべらない少女でした。

しかし、高校生になるまでは内気で困ったことはなく、他の子と同じように学校生活を送ったと言います。

友達も普通にいましたが、あまり遊んだ記憶はなく、一人でいることが多かったようです。

大学も自宅から通えるところに進学し、同じ高校から進学した女性たちと入学後すぐに仲間を作りました。いつまでも一緒だよ、とみんなで言い合ったのですが、結局は離れ離れになったと言います。

両親や周りの人から、もっと友達を作った方がいいと言われるのですが、C さん自身は無理だと感じています。「30歳になって、人と話すのが苦手な自分に、新しい友だちを作ることはできない。若い人は年上の人間と付き合いたがらないし、同年代の人は結婚してたり、子育てに忙しかったりで時間がない」と。

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大学卒業後すぐ、今の会社に勤めて8年たちます。その会社で、29歳の時に事件が起こります。

C さんの職場では、仕事の後にみんなでよく「飲み会」を開いていました。C さんもいつも誘われていたのですが、29歳のある日、突然誘われなくなったのです。

おとなしくて恥ずかしがり屋のC さんは、自分からは誘ってほしいとか、自分も参加したいとか、言えませんでした。

そのまま時は過ぎ、今もC さんは職場の飲み会に誘われないと言います。会社行事としての忘年会や新年会などには誘われているのですが。

29歳のある時、C さんは心療内科を受診します。内気なC さんは問診されている間中、医師と視線を合わせることができませんでした。

それはいつものことでした。C さんは、初対面のよく知らない人とは、視線を合わせたり、自分から話しかけたりできないのです。

C さんは医師から、「アスペルガーの検査を受けてください、あなたはアスペルガーでしょう」と言われました。C さんが視線を合わせられなかったからのようです。

C さんは医師に、「私はアスペルガーではありません」と言いました。「学校では何の問題もなかったし、父は社交的な人だし」と。

C さんは、重度の不安障害を抱えて心療内科を受診したのに、アスペルガーと診断されたことに大きなショックを受けました。

C さんは2件目のクリニックで、「社交不安症(社会不安障害)」と診断されます。医師から、何か思い当たるエピソードはありますか?と聞かれたC さんは次のように答えます。

自分には、原因がわかっています。私が若いころに付き合った、男性からの虐待です、と。

もちろん、身体的な虐待はありませんでした。しかし、彼の言動はとても無神経で、私は何度も繰り返し精神的な虐待を受けました、と。

私は、自分に自信がもてません。それに、とても恥ずかしがり屋です。それらはみんな、彼や周りの人からの虐待から始まったと感じています。

私にはまた、醜形恐怖症(BDD)もあります。

私はいつも、自分の顔に執着しています。みんな私を可愛いと言いますが、鏡を見ると醜いとしか思えません。顔の、各部分が大きすぎるのが、とても醜くて、鏡を見るのも嫌です。

C さんは医師に、「お酒を飲むと話せるのです」とも言います。

お酒を飲むと、大勢の前でカラオケが歌えるし、どんな人とも、話し過ぎる位に話せます。自分が別人になったようで、気持ちもとても落ち着きます。

お酒がなければ、男の人とは全く話せません。

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医師はC さんに、ベンゾ系の抗不安薬とイフェクサーの最少量を処方します。

お酒については、当座は症状が軽くなるが、長期的には病状が悪化するので控えましょうと説明します。

視線が合わせられないことについては、ゆっくりとトレーニングしていきましょう。まず、視線を合わせる気持ちを持つことから始め、薬の効果で気持ちに余裕ができれば、視線を合わせられる時間を増やしていきましょう、と説明しました。

現在C さんは、イフェクサーの最少量をのんでいるだけですが、いろんなことが、不安なくできるようになってきています。

C さんは今の自分の状態を次のように表現します。

私は死ぬことを心配していました。自分にとっては、それが究極の恐怖でした。何度も何度も死ぬことを考えました。死ぬことに執着し続けていました。

イフェクサーのおかげで、私はもう死ぬことを心配していません。私は全く新しい人になったと思います。

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症例2、非有効例

T さんは32歳の男性です。社交不安症で心療内科を受診しました。

T さんの治療は、セルトラリン(ジェイゾロフト)から始まりました。

しかし、セルトラリンを服用しても、社交不安の症状は殆ど改善しませんでした。

また、めまいなどの副作用も続いたので、主治医はセルトラリンからイフェクサーに薬を変更しました。

イフェクサーに薬を変更したT さんですが、やはりセルトラリンと同じ副作用を経験しました。

めまい、頭に膜が張った感じでボーとする、疲れやすい、気力がわかない、性欲低下などです。

イフェクサーに変更してよかったのは、眠れるようになったことです。それで、少しだけ気分はよくなりました。

しかし、社交不安の症状には、ほとんど効果がありませんでした。

身体面の症状である、汗をかく、顔が赤くなる、動悸がするなどは少し軽くなりましたが、人と話すときの緊張や、見られることに対する不安は続き、しゃべれるようにはなりませんでした。

イフェクサーがもたらす効果に比べて、副作用が強いと感じたため、T さんは自己判断で薬をやめ、通院も中断しました。

現在T さんは、ネットで検索したサプリで何とかしようと頑張っています。

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