不安症群の治療には、SSRIとSNRIがよく使われます。SSRIではレクサプロ、SNRIではイフェクサーの評価が高いようです。もちろん、有効性も患者評価もベンゾが一番ですが、長期的な視点から治療を考えれば、ベンゾは限定的な使用にとどめざるを得ません。
今回はイフェクサーの使用症例を2例紹介します。
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症例1、有効例
C さんは30歳の女性です。今も両親と同居していて、自宅から2駅離れたところにある会社に勤めています。
両親は健在で、二人とも子ども思いです。一人っ子のC さんですが、特に甘やかされて育ったわけではありません。
関東の都市部近郊で育ったC さんは、子どものころから内気で、しゃべらない少女でした。
しかし、高校生になるまでは内気で困ったことはなく、他の子と同じように学校生活を送ったと言います。
友達も普通にいましたが、あまり遊んだ記憶はなく、一人でいることが多かったようです。
大学も自宅から通えるところに進学し、同じ高校から進学した女性たちと入学後すぐに仲間を作りました。いつまでも一緒だよ、とみんなで言い合ったのですが、結局は離れ離れになったと言います。
両親や周りの人から、もっと友達を作った方がいいと言われるのですが、C さん自身は無理だと感じています。「30歳になって、人と話すのが苦手な自分に、新しい友だちを作ることはできない。若い人は年上の人間と付き合いたがらないし、同年代の人は結婚してたり、子育てに忙しかったりで時間がない」と。
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大学卒業後すぐ、今の会社に勤めて8年たちます。その会社で、29歳の時に事件が起こります。
C さんの職場では、仕事の後にみんなでよく「飲み会」を開いていました。C さんもいつも誘われていたのですが、29歳のある日、突然誘われなくなったのです。
おとなしくて恥ずかしがり屋のC さんは、自分からは誘ってほしいとか、自分も参加したいとか、言えませんでした。
そのまま時は過ぎ、今もC さんは職場の飲み会に誘われないと言います。会社行事としての忘年会や新年会などには誘われているのですが。
29歳のある時、C さんは心療内科を受診します。内気なC さんは問診されている間中、医師と視線を合わせることができませんでした。
それはいつものことでした。C さんは、初対面のよく知らない人とは、視線を合わせたり、自分から話しかけたりできないのです。
C さんは医師から、「アスペルガーの検査を受けてください、あなたはアスペルガーでしょう」と言われました。C さんが視線を合わせられなかったからのようです。
C さんは医師に、「私はアスペルガーではありません」と言いました。「学校では何の問題もなかったし、父は社交的な人だし」と。
C さんは、重度の不安障害を抱えて心療内科を受診したのに、アスペルガーと診断されたことに大きなショックを受けました。
C さんは2件目のクリニックで、「社交不安症(社会不安障害)」と診断されます。医師から、何か思い当たるエピソードはありますか?と聞かれたC さんは次のように答えます。
自分には、原因がわかっています。私が若いころに付き合った、男性からの虐待です、と。
もちろん、身体的な虐待はありませんでした。しかし、彼の言動はとても無神経で、私は何度も繰り返し精神的な虐待を受けました、と。
私は、自分に自信がもてません。それに、とても恥ずかしがり屋です。それらはみんな、彼や周りの人からの虐待から始まったと感じています。
私にはまた、醜形恐怖症(BDD)もあります。
私はいつも、自分の顔に執着しています。みんな私を可愛いと言いますが、鏡を見ると醜いとしか思えません。顔の、各部分が大きすぎるのが、とても醜くて、鏡を見るのも嫌です。
C さんは医師に、「お酒を飲むと話せるのです」とも言います。
お酒を飲むと、大勢の前でカラオケが歌えるし、どんな人とも、話し過ぎる位に話せます。自分が別人になったようで、気持ちもとても落ち着きます。
お酒がなければ、男の人とは全く話せません。
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医師はC さんに、ベンゾ系の抗不安薬とイフェクサーの最少量を処方します。
お酒については、当座は症状が軽くなるが、長期的には病状が悪化するので控えましょうと説明します。
視線が合わせられないことについては、ゆっくりとトレーニングしていきましょう。まず、視線を合わせる気持ちを持つことから始め、薬の効果で気持ちに余裕ができれば、視線を合わせられる時間を増やしていきましょう、と説明しました。
現在C さんは、イフェクサーの最少量をのんでいるだけですが、いろんなことが、不安なくできるようになってきています。
C さんは今の自分の状態を次のように表現します。
私は死ぬことを心配していました。自分にとっては、それが究極の恐怖でした。何度も何度も死ぬことを考えました。死ぬことに執着し続けていました。
イフェクサーのおかげで、私はもう死ぬことを心配していません。私は全く新しい人になったと思います。
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症例2、非有効例
T さんは32歳の男性です。社交不安症で心療内科を受診しました。
T さんの治療は、セルトラリン(ジェイゾロフト)から始まりました。
しかし、セルトラリンを服用しても、社交不安の症状は殆ど改善しませんでした。
また、めまいなどの副作用も続いたので、主治医はセルトラリンからイフェクサーに薬を変更しました。
イフェクサーに薬を変更したT さんですが、やはりセルトラリンと同じ副作用を経験しました。
めまい、頭に膜が張った感じでボーとする、疲れやすい、気力がわかない、性欲低下などです。
イフェクサーに変更してよかったのは、眠れるようになったことです。それで、少しだけ気分はよくなりました。
しかし、社交不安の症状には、ほとんど効果がありませんでした。
身体面の症状である、汗をかく、顔が赤くなる、動悸がするなどは少し軽くなりましたが、人と話すときの緊張や、見られることに対する不安は続き、しゃべれるようにはなりませんでした。
イフェクサーがもたらす効果に比べて、副作用が強いと感じたため、T さんは自己判断で薬をやめ、通院も中断しました。
現在T さんは、ネットで検索したサプリで何とかしようと頑張っています。
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